常に新たな技術が導入されて革新の目覚ましい自動車業界ですが、100年に1度とも言われる自動車業界変革のキーワードである「CASE」はご存知でしょうか。自動車業界にいる中小車屋でも、「聞いたことはあっても詳細は分からない」「中小車屋には関係ない」と思っているかもしれません。ところがCASEは、自動車業界全体に影響を及ぼすほどの、新たな潮流となっているのです。
そこで今回はCASEについて、注目される理由や世界的な動向、中小車屋が取り組むべきことについて解説します。
「CASE」とは?意味・読み方を解説!
近年、自動車業界で注目を集めているトレンド、「CASE」はご存知でしょうか。これは、次の単語の頭文字を取って並べた造語です。読み方は「ケース」です。
・C=ConnecteD(コネクテッド)
・A=Autonomous/AutomateD(自動化)
・S=ShareD&Services(シェアリング)
・E=Electric(電動化)
2016年、パリでのモーターショーにおいて、メルセデス・ベンツ・グループのダイムラーが自社の中長期戦略の中で「CASE」を用いたのが始まりです。変革の時を迎えている自動車業界の動向を象徴するキーワードとして、トヨタ自動車の豊田昭夫男社長も「CASEが100年に一度の大改革を起こしている」「CASEによって車の概念が大きく変わり、競争相手・競争ルールが大きく変化している」と述べています。
ここからは、CASEの4つの頭文字それぞれについて意味を解説していきましょう。
CASEのCは、「ConnecteD(コネクテッド)」
CASE のうちのConnecteD(コネクテッド)とは「つながる車」を意味し、車のインターネットと常に接続できる機能を搭載した車を指します。自動車にセンサーや通信機器が搭載されてIoT化が急速に進んでいます。つまりCASE のConnecteDは、「自動車のIoT化」と言い替えられるでしょう。
インターネットから車の状況や周辺情報、道路状況などの情報を、運転にリアルタイムに活用できれば、さまざまな可能性が広がります。たとえば車外から車を呼び寄せたり自動駐車したり、車両に異常を感じれば自動で保険会社に通知するなどです。また、次には実用化されているコネクテッドの事例を紹介します。
・交通情報、駐車場空き情報の通知
・自動車の盗難に遭った際の自動追跡システム
・事故発生時の自動通報システム
・エンジン再始動を制御するセキュリティシステム
今後も高速・低遅延・大容量の通信技術で「つながる車」であることは、自動運転実現に向け不可欠な技術だと言えるでしょう。
CASEのAは、「Automnomous/AutomateD(自動化)」
CASE におけるAutomnomous/AutomateD(自動化)とはずばり、運転の自動化を指します。運転操作の一部または全部を自動化システムが代替する機能は、米国自動車技術会(SAE)によって次の6段階に定義されています。
・レベル0:運転自動化なし(運転主体:人)
・レベル1:前後・左右いずれかの運転を制御する運転者支援(運転主体:人)
・レベル2:前後・左右どちらの運転も制御する部分的運転自動化(運転主体:人)
・レベル3:限定した条件下での運転自動化(ドライバーの対応が必要)
・レベル4:特定条件下でシステムが全ての運転タスクを行う完全自動運転(運転主体:車)
・レベル5:常にシステムが運転タスク全てを行う完全運転自動化(運転主体:車)
日本では、レベル1または2の技術が多くの自動車メーカーで採用されています。たとえば前の車に追従するACC、車線内走行をアシストするLKAS、衝突被害軽減ブレーキ、またはそれらを組み合わせた機能を搭載した車が続々と誕生しているのはご存知でしょう。さらにホンダは2020年、レベル3の技術を搭載した「新型レジェンド」を発表するなど、実用化が進んでいます。
海外に目を向けると、中国やアメリカではレベル4の実証実験が行われています。その一方で、レベル5の実現は現時点での技術力では難しいと言われているのです。レベル3とレベル4・5との違いは、運転の主体が人から車になり、運転手が不在になるという点でしょう。日本では、2020年に道路交通法改正により高速道路などでレベル3までの車の走行が認められましたが、レベル4・5の実用化にはさらなる法整備が必要になります。。
CASEのSは、「ShareD&Services(シェアリング)」
CASE における「ShareD&Services(シェアリング)」は、車を複数人で共有する仕組みを指します。車そのものをシェアする「カーシェアリング」のほかに、所有者と乗りたい人が相乗りする「ライドシェアリング」の2種類があります。従来は、車を所有しなければレンタカー以外に車を利用する方法はありませんでしたが、シェアリングによって選択肢が広がったと言えるでしょう。
日本におけるシェアリングの現状としては、カーシェアリング市場の急成長が挙げられます。2020年3月の調査によると、カーシェアリングの車両台数が約40290台に上り、前年比で約15%の増加がみられました。車は「所有するもの」という固定観念から「移動のツール」として捉えられるようになり、シェアする抵抗感がなくなってきたと言えます。
ただしライドシェアについては、現在では有償での相乗りは日本では「白タク」に該当してしまい、現在の道路交通法で禁止されている行為になります。公共交通サービスの充実していない過疎地域などでは例外的に認められているので、今後さらに広がっていくことが十分考えられるでしょう。
CASEのEは、「Electric(電動化)」
CASE における「Electric(電動化)」は、従来のガソリンなどの化学燃料で走る車から、二酸化炭素を排出しないハイブリッド車・電気自動車などへシフトすることを指します。脱炭素社会の実現による地球温暖化対策として、世界的に大きな流れが起きていると言えるでしょう。
日本でも、日産「リーフ」をはじめとして、モーターやバッテリーの性能の高い電気自動車が次々登場しています。電気自動車は環境に優しいだけでなく制御のしやすさも魅力であり、C(コネクテッド)やA(自動運転)の実現にも貢献するものでしょう。
「CASE」が注目される理由とは?
ダイムラーにより発表された「CASE」は、C・A・S・Eの4つを組み合わせ、モビリティサービスを提供するプロバイダーへの転換を宣言する狙いがあったのです。この発表は自動車メーカーに衝撃を与えました。これまでの自動車の製造・販売にとどまらず、自動車という「移動手段サービス」を提供するという全く新しい流れだったからです。
さらに自動車業界を取り巻いていた次のような環境の変化から、CASEが注目されたと考えられます。
・気候変動対策による環境規制
・高齢化・少子化の加速
・高齢者による交通事故対策の必要性が増加
・若年層の自動車への購買力低下
・経済の不安定化や格差問題による「所有から利用へ」と価値観の変化を促す流れ
また、CASEの先にあり、さまざまな課題解決の手段、そして移動利便性向上の手段となるものが「MaaS」です。「MaaS」とは「Mobility as a Service」の略であり、住民や旅行者が移動する際に、さまざまな移動サービスを最適に組み合わせ検索や予約・決済などを一括で行えるサービスを指します。住民の移動や旅行者の観光、医療などに活用でき、地域の課題解決にも期待が寄せられているものなのです。
「CASE」それぞれの業界動向とは?
「CASE」のC・A・S・Eそれぞれについて解説してきましたが、自動車業界の動向としてはどのようなことが起こっているのでしょうか。
C(コネクテッド)の業界動向とは?
日本国内では、トヨタが2018年の新車販売時にコネクテッドサービスである「T-Connect」を本格的にスタートしました。以後、国内販売するほぼ全車種にDCM(車載通信機)を搭載しています。
日産は、マイクロソフト社と提携して「Nissan Connect」の展開を始めました。スマホとの連携機能が特徴となっています。
スバルでは、万一のアクシデントの際にも車とスバルとがつながるコネクトサービス「STARLINK(スターリンク)」を展開し、2022年までの間に約8割以上の新車をコネクテッドカーとする目標を打ち出しました。
マツダもコネクテッドサービス「G-BOOK ALPHA」を提供しています。ホンダはソフトバンクと提携して2018年よりコネクテッドサービス展開に向けて動き出すことが発表されているのです。
自動車メーカーのみならず、ソフトバンクやNTT、KDDIといった通信事業者にも動きがあります。コネクテッドサービスの展開を巡り自動車メーカーや部品メーカーに接近する動きが活発化するのも、当然の流れと言えるでしょう。さらに自動車のコネクテッド化、自動運転で必須となる「クラウドサーバー」は、マイクロソフトやAmazon、Googleなど世界的企業がそれぞれ展開しています。
どのクラウドサーバーを選択するかは、クラウド大手にとって大きな問題であり、今後競争が激化することが見込まれるでしょう。また、この競争激化に伴い、それぞれのサービスの品質向上にも期待ができます。
A(自動化)の業界動向とは?
自動運転レベルの1や2の技術は、既に多くの自動車メーカーで採用されています。ところがレベル3になると、搭載に成功しているのは、2023年1月現在ではホンダとメルセデスベンツのみです。
世界的には、レベル4がタクシーやシャトルバスなどで実現化されています。レベル4になると特定エリアをシステム主体で自動運転することになります。自動運転のタクシーはアメリカのWaymo、シャトルはフランスのEasy MileやNavyが有名でしょう。この世界的な移動運転化は、GoogleやApple、IntelなどのIT企業の顕著な参入が後押ししているのです。日本においても、ソフトバンクが自動運転技術を開発するベンチャーやスタートアップ企業への投資を行っています。日本でレベル4の技術が実現されることも近いかもしれません。
S(シェアリング)の業界動向とは?
日本ではまだ違法であるライドシェアですが、アメリカの「ウーバー・テクノロジーズ」や中国の「DiDi」、シンガポールの「グラブ」など世界的には浸透を見せています。また、日本でもタクシー配車サービスは活性化しています。ウーバーやソフトバンクなどで配車アプリを展開しているほか、DeNAでもAIを使った配車アプリの拡大を図っているところです。さらにソニーはタクシー事業者と共同でタクシーの配車アプリを展開しており、タクシー業界をも巻き込んでの競争の激化が予想できます。
E(電動化)の業界動向とは?
世界的に見ると、EV(電気自動車)熱の高まりは欧州がスタートでした。現在ではアメリカ・中国にも広がっています。アメリカではテスラをはじめ多くのEV企業が株式市場において注目を集めています。テスラは早くからEVに特化しており、Panasonicが電池を提供しているのです。このように高容量・小型化、そして安全性も兼ね備えた新電池を開発・実用化することで、燃料電池供給会社の大きな商機になることでしょう。
EV、燃料電池の開発においては、中国の台頭も目覚ましいものがあります。中国最大手のCATL(寧徳時代新能源科技)は、BMWから数千億円分の発注を受けたことで話題となっています。
CASEについての経済産業省のアクションとは?
2020年に「CASE技術戦略のプラットフォーム まとめ」が経済産業省で取りまとめられました。国としてCASEへの取組を強化する方向性がしっかり打ち出されたというわけです。経済産業省は、CASEの具体的な方向性として次の4つのテーマを掲げました。
CO2の低減
CO2低減のために「LCA」「軽量化・マルチマテリアル」「リユース・リサイクル」の3分野を取り上げています。
「LCA」とは、原料採取から製造・使用・廃棄に至る全工程において環境負荷を軽減するものです。そのため、バッテリーに関して議論を始めています。「軽量化・マルチマテリアル」や「リユース・リサイクル」分野においては車両軽量化や、車載用の蓄電池・アルミニウムのリサイクルなどに関した研究・議論が進められています。
電動化技術
電池・パワー半導体の生産性向上、小型高速モーターや全個体電池などの燃料電池の開発研究などに関する取組です。
AD/ADAS、コネクテッド技術
「シミュレーション技術の活用」「コネクテッド関連技術・セキュリティ」「ソフトウェア人材の育成強化」の3分野があります。「コネクテッド関連技術・セキュリティ」においては、協調型自動車運転の実現に向けた通信方式についての提案、そして通信技術のロードマップ策定などが行われているのです。「シミュレーション技術の活用」では、一般道での安全評価用のシナリオ作成などのプロジェクトをスタートすることが決定しています。
基盤的技術
「基盤的技術」に関しては、「電磁波対応特性を持った新素材」「モデルベース開発」「多様なモビリティの展開」について打ち出されています。
中小の車屋が取り組むべきこととは?
CASEは自動車業界の今後を支えるものであり「CASEを制する企業が自動車業界をも制する」とさえ言われているのです。ただしCASEは、大手自動車メーカーをはじめとした大企業同士での協業が大部分です。そのため、中小企業、中小車屋の中には「CASEは自社には関係ない」「自社のビジネスに影響があるのか分からない」と考える経営者もいることでしょう。
ただし、自動車部品の製造を効率化させる樹脂3Dプリンタ技術の開発や、運転者モニターシステムの開発、人工クモ糸繊維の量産開発などはどれも、中小企業同士の協業によるものなのです。CASEは中小企業にとっても、好機となり得る証拠でしょう。新規の事業や開発には補助金が出る場合もあり、CASEは大きなビジネスチャンスになる可能性を秘めているのです。
それでは、中小の車屋はどうでしょうか。自社で自動車の開発をするわけではない中小車屋にとって、CASEはどのような関係があるのでしょう。
自社で自動車の開発をするわけではない中小車屋は、既に完成している車の販売が主な仕事のはずです。開発・製造には携わらないものの、自動車の購入を検討している顧客と直接触れ合う仕事だと言えます。車を売るには車に対する豊富な知識が必要であり、CASEが推進されることで中小車屋もCASEの新たな技術や特徴、運転方法など、顧客に説明できるレベルまで熟知する必要があるでしょう。
また、CASEが推進されるとは言っても、顧客が本当に欲しがるのかは別問題です。現に日本国内におけるEVの普及率は、車全体のわずか0.76%にしか過ぎないと言われています。買取も行っている中小車屋なら、仕入れる際に本当に顧客の望む機能が搭載された車なのかを見極める必要があるでしょう。
中小車屋だからCASEは関係ないのではなく、最新動向には常にアンテナを張っておくことが大切でしょう。
まとめ
CASEは大企業同士の協業が大部分を占めますが、中小車屋だからといって決して無関係ではありません。自動車業界は、大手自動車メーカーだけでなく、整備業者や販売業者、部品メーカーやリース会社、自動車教習所など裾野の広さが特徴です。1つの変化が、業界全体に影響を及ぼすことも少なくありません。それは、中小車屋も例外ではないのです。常にCASEにおける最新の情報を仕入れ、情勢を把握するとともに、顧客へ説明できるようにしていきましょう。