業種関係なくDX化が求められている昨今、飲食店も決して例外ではありません。飲食店で課題になっているのが、慢性的な人手不足です。人手不足の解消になりうるとして注目されているのが、モバイルオーダーです。今回はメリット・デメリットなど、モバイルオーダーシステムの特徴について詳しく解説します。
そもそもモバイルオーダーとは?
モバイルオーダーは飲食店などで新しい注文や決済ツールとして注目されています。実際日本全国にチェーン展開しているような大手飲食店でも、モバイルオーダーを導入する企業が増えてきています。
お客さんの端末から注文するスタイル
モバイルオーダーの仕組みについて解説すると、お客さんがお手持ちのスマホやタブレットを使って注文や決済の行えるシステムです。店内で飲食するためとテイクアウト用のシステムの2種類があり、両方を導入している飲食店も大手の中には見られます。
店内でオーダーする際には、各座席に設置されているQRコードをお手持ちの端末に読み込ませます。すると画面にメニューが表示されるので注文したいものを選択し、数量を入力の上でオーダーする流れです。
お支払い方法は端末で済ませられる場合もあれば、従来通りレジで精算する方式もあります。テイクアウト方式の場合、お手持ちの端末でブラウザにアクセス、もしくはアプリを起動します。そして画面の指示に従って注文・決済まで完了できるのです。
来店する前から注文できるので、前もってオーダーを出せば来店したらすぐに商品を受け取れるわけです。その結果として、待ち時間が短縮できます。
人手不足が背景
モバイルオーダーは飲食店で広く普及しているといわれています。その背景として大きいのは、飲食業界の慢性的な人手不足です。飲食店業務の中でも大きなウエイトを占めている注文と会計をお客さんが自ら行えるようにすれば、より少ない人数でも店を切り盛りできるわけです。
またコロナ禍も普及の進んだ要因の一つといえます。コロナ禍で不要な人との接触を自粛するように求められました。モバイルオーダーであれば、自分の端末に打ち込んで注文や決済ができます。店員さんを呼び出す必要がなく、不要な接触を避けられるため、飲食店の間で広まっていきました。
モバイルオーダーを導入するメリット
モバイルオーダーを導入することによって、作業効率化が進むといったメリットが期待できます。またお店側だけでなく、お客さん側にもメリットが期待できるのでどのような利点があるのか見ていきましょう。
オーダーミス防止
オーダーミスが起きるとお客様からのクレームが入るでしょうし、作ってしまったメニューが無駄になりかねません。しかし従来の店員が注文を受けるスタイルの場合、人間が行うのでどうしてもミスが起こりがちです。
モバイルオーダーの場合、顧客自身が端末で注文する手法です。このためオーダーミスが起こりにくくできますし、たとえミスがあったとしても、それはお客さん自身のミスによるものなのでクレームを受けることもないでしょう。
安価で導入できる
飲食店の中には各テーブルにタブレットを設置して、お客さんがこちらを操作して注文するセルフオーダーシステムがあります。こちらもお客さん自身で注文するのでオーダーミスが起こりにくくなりますし、スタッフとの接触もありません。しかし、セルフオーダーシステムの場合タブレット端末と充電器具を各テーブルに設置しなければなりません。このためどうしても導入コストが高くなります。
一方モバイルオーダーはお客さん自身の端末を使って注文や決済するシステムです。端末の導入コストがなくなるので、かなり低コストといえます。セルフオーダーと比較してモバイルオーダーは予算が1/10にも圧縮できるといわれているほどです。
またコロナ禍を経て、セルフオーダーの場合、端末の除菌などメンテナンスも必要です。一方お客さんの端末を使ってオーダーするモバイルオーダーの場合、メンテナンスコストもほとんどかからないところもメリットといえます。
注文の分析が可能
モバイルオーダーの場合、注文情報はデータベースの中で保存されます。ということは集計されたデータを使って、お客さんの注文傾向の分析が可能です。どのメニューに注文が集まっているか、各メニューの毎日の注文数がわかるので適量の食材仕入れができ、食材を破棄する量も少なくできます。また時間帯別の注文傾向などもわかるので、リピーターを増やすための戦略なども練れます。
回転率を下げることなく営業できる
モバイルオーダーを導入すれば、お客さん自身が好きなタイミングで注文可能です。注文するまで待たされる必要がなくなり、お客さんのフラストレーションもたまりません。また回転率も下がらないので、効率的な営業ができると店側にもメリットがあります。
インバウンド対策になる
コロナ禍が収束したことで、外国人観光客の訪日も活発になりつつある状況です。このようなインバウンド客の集客にもモバイルオーダーは一役買ってくれるでしょう。外国人観光客の中には、日本オリジナルの料理を堪能したいと思っている人も多いはずです。
しかし従来の店員に注文する方式だと、言語の壁がネックになります。しかしモバイルオーダーであれば、店員とのやり取りが不要です。言葉が通じないなどのストレスもお互いたまりませんし、言語がわからないことで起こるオーダーミスもなくなります。
またモバイルオーダーの場合、画面に料理の画像を掲載することも可能です。文章ではわからなくても画像があれば、大体の料理のイメージはつかめるでしょう。よってお客さんも注文後に「思っていたのと違った」と後悔するリスクも低減できます。
気兼ねなく注文できる
従来のメニュー表を見て注文する場合、グループで来店するとメニュー表を回してそれぞれオーダーする形でした。しかしモバイルオーダーであれば、それぞれの端末で自ら注文できます。メニュー表が回ってくるまで待たされることがありません。
居酒屋などでドリンクをおかわりするときに、ほかの人に合わせて注文したことはありませんか?モバイルオーダーなら自分の端末で好きなときに注文が出せるので、周りに合わせてオーダーをセーブする必要もありません。
また「注文したくてもできなかった」といった事態を回避できるのもお客さん側から見たメリットの一つです。「店員さんを呼んでもなかなか来てくれなかった…」「注文したくても忙しそうだったからタイミングを失ってしまった…」といった経験はありませんか?しかしモバイルオーダーであれば、端末で注文できるので店員さんの様子をうかがって注文のタイミングを計るようなことも必要ありません。
検索機能が使える
メニュー表で注文しようとしたときに、食べたいものがなかなか見つからず苦戦した経験もあるでしょう。とくに飲み物から各種メニューがそろっている居酒屋だと、飲みたい・食べたいメニューがどこにあるかわからなくなることもあるでしょう。
モバイルオーダーの場合、検索機能のついているものも少なくありません。注文したいメニューに関連するキーワードを入力したら、すぐにオーダーできるのでお客さんにとっても魅力的です。
モバイルオーダー導入のデメリット
モバイルオーダーを導入することによって、メリットだけでなくデメリットも考えられます。コストの問題は切り離せませんし、システムを各店員が使いこなせるようになるための研修も必要になってくるでしょう。
コストが発生する
モバイルオーダーシステムを導入するためのコストはどうしてもかかります。またランニングコストの問題も出てくるでしょう。サービス利用手数料のほかにもクレジット決済などのキャッシュレスの支払いが多くなるので、決済手数料や振込手数料も負担しなければなりません。
ただしモバイルオーダーを導入すれば出ていくお金もありますが、コスト圧縮の側面もあります。たとえば注文や会計作業が必要なくなるので、そのためのスタッフを配置せずに済みますからその分人件費カットが可能です。メニュー表の作成が必要なくなりますし、決済もシステム内で行えばレシートの作成の手間も省けます。これらの経費もカットできるので、長期的に見ればむしろコストカットにつながるでしょう。
返金対応が難しい
モバイルオーダーでも注文ミスをゼロにはできません。モバイルオーダーで決済機能がついていると、注文から決済までの一連の流れをすべてお客さんがやる形です。決済後に注文ミスがあった場合、返金対応が難しいのはデメリットといえます。モバイルオーダーのシステムによっては、キャンセルができないものもあるので返金やキャンセル対応をどうするか、別個で検討する必要が出てくるでしょう。
障害時の対応
モバイルオーダーのようなネットワークを使ったオペレーションシステムの場合、システム障害や通信障害などのリスクはどうしても発生します。障害が発生すれば、一時的にモバイルオーダーの利用できなくなる可能性があるのもデメリットとして無視できません。
障害が発生した場合の注文受けをどうするのか、従来のスタッフが対応するスタイルにするなどの対策が必要です。何も対策ができていないと、障害から復旧するまでの間、最悪注文が一本も取れなくなることもあり得ます。
スタッフの研修が必要
モバイルオーダーを導入すれば、業務オペレーションの流れも抜本的に変わってしまいます。このためスタッフに新しいシステムを理解してもらうための研修プログラムが必要です。
どのような形で指導するのか、研修マニュアルを策定しないといけないので、導入当初の業務量は増えるかもしれません。この研修が不十分なため、店員がしっかりシステムを理解せずに接客させると、逆に店の回転率が落ちてしまう、客からのクレームが増えるなどのデメリットが生じる可能性があります。
店員側だけでなく、お客さん側にもシステムを理解してもらう必要があります。使い方がわからず、見込み客が離脱してしまってビジネスチャンスを逃すこともあり得ます。画面でやり方がわかるように説明する、お店の目立つところに使い方について紹介するポスターを出すなどの対処が必要です。
セキュリティリスク
ネットワークを使っているので、情報漏洩などのセキュリティリスクが介在するのもデメリットの一つです。もちろんきちんとした運営企業であれば、セキュリティ対策を万全にしています。まず情報漏洩が起きることはないでしょうが、お客さんはクレジットカード情報など大事な情報を入力します。セキュリティ対策を万全に行っていることを周知徹底させ、お客さんを納得させる必要もあるでしょう。
モバイルオーダーには3種類ある
モバイルオーダーシステムを導入する場合、どのタイプを採用するか検討しなければなりません。飲食店で導入する場合、イートイン型・テイクアウト型・キャッシュオン型の3種類のうちいずれかから選ぶことになるでしょう。それぞれ異なる特徴を有しています。
イートイン型
イートイン型とは、店内で飲食するスタイルのお店向けのシステムです。一般的には各座席にQRコードが設置されているので端末に読み込ませます。するとメニューが表示されるので、食べたいものを自身で選択します。オーダーをスタッフがいちいち取りに行く必要がなくなるので、ほかの業務に割り振ることが可能です。会計は従来通りレジで行うのが一般的です。しかし中には端末上で決済までできるようなシステムも一部見られます。
テイクアウト型
テイクアウト側は注文したメニューをお持ち帰りするような飲食店向けのシステムです。お客さんがお手持ちの端末でメニューを注文します。そしてお店に行き、出来上がった商品を受け取る流れです。来店前にメニューを注文できるので、お店に行けばすぐに商品を受け取れます。テイクアウト時の待ち時間を短縮できるので、お客さんにとってはメリットの大きなシステムです。中には受け取り時間を指定して受け取れるようなシステムも見られます。
テイクアウト型の導入は店側にもメリットがあります。お客さんの注文を取る必要がなくなり、商品を受け渡すところだけに専念できるからです。顧客対応の効率化が図れますし、お客さんも受け取りまで待たされることもなくなるので混雑を緩和できる点もメリットです。
キャッシュオン型
キャッシュオン型とはお客さん自身でQRコードを読み込み、メニューをチェックします。そして注文と決済、同時に行えるのが大きな特色です。注文したときに会計を行うような飲食店、具体的にはファストフード店やカフェなどに適性のあるシステムです。注文と決済を一括で行えるので、レジ前が混雑することもなくなります。また決済も画面で済ませられるので、支払い時の手間を省けるのもメリットといえます。
キャッシュオン型は先ほど紹介したイートイン型とテイクアウト型の両方に対応しているのも特長の一つです。お店によっては店舗で飲食してもらうほかにも、テイクアウトの注文を受け付けているところもあるでしょう。このような両方に対応しているお店にはおすすめのモバイルオーダーのタイプといえます。
このようなお店はモバイルオーダーがおすすめ!
モバイルオーダーにはメリットデメリット両面があるので、導入すべきかどうか悩むお店も出てくるでしょう。とくにおすすめなのは、少人数でオペレートしている飲食店です。人材不足でアルバイトの募集を出してもなかなか人が集まらない飲食店も少なくありません。結果、少人数でお店を切り盛りしていかないといけないでしょう。モバイルオーダーを導入すれば、注文や会計作業を省けます。そのための人員が必要なくなるので、必要最低限の人数でも店を回していけます。
また調理に手間のかかるメニューを多く出しているお店もおすすめです。従来のオーダーだと、お客さんを長時間待たせてしまいます。しかし来店前にあらかじめ注文できるようにして、出来上がり時間が指定可能なモバイルオーダーシステムを導入すればお客さんを待たせることもなくなります。
まとめ
人手不足でなかなかスタッフを確保できない飲食店はモバイルオーダーシステムを導入して、店のオペレーションをDX化することも真剣に検討したほうがいいでしょう。導入コストなど初期費用はかかるものの作業効率性が上がりますし、人件費のコスト圧縮効果も見込めます。また言葉によるコミュニケーションを省略できるので、インバウンド集客効果も期待できます。またお客さんからしても、自分のタイミングで注文できるので店員の様子をうかがう必要がありません。
モバイルオーダーというと全国にチェーン展開しているような大手飲食店が導入するものだと感じるでしょう。しかし導入事例を見てみると、中小の飲食店でも導入しているところは決して少なくありません。店のオペレーションが滞りがちになっているなら、導入を本格的に検討してみませんか?