「福祉車両」をご存知でしょうか。福祉施設の送迎など、高齢者や身体障害者を乗せる特殊な車だというイメージをお持ちかもしれません。実際はそれだけにとどまらず、一般に売られている軽自動車などを福祉車両に改造したものなど、広く一般の人も運転できるような福祉車両が販売されているのです。
そのような福祉車両のニーズは年々高まっていることから、福祉車両を取り扱いたいと考える方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、福祉車両取り扱い店になるためにするべきことや、注目の資格である福祉車両取扱士について解説していきましょう。
ニーズは年々急上昇!福祉車両とは?
まずは、福祉車両について基礎的なことから解説していきます。
「福祉車両」とは?
我が国における65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は、年々増えています。総務省の調査によると、我が国の総人口における高齢者人口の割合は、2022年には29.1%でした。この割合は、なんと世界一だというから驚きではないでしょうか。2036年には65歳以上の高齢者の割合は33.3%を超えるという試算もあり、日本人の3人に1人は高齢者という時代に突入していくことが予想されているのです。
このような高齢化社会において、ニーズの高まっているのが「福祉車両」です。福祉車両というと、介護の必要な高齢者を乗せられる車だと思われている方が多いでしょう。ところが実際は、「介護向け車両」のほかに、高齢者または身体障害者自身が運転できるよう補助装置のついた「自操作式車両」も福祉車両に含まれます。
また、介護向け車両の中にも種類はさまざまです。車椅子に乗ったままで自動車に乗ったり降りたりできる「車椅子移動車」や、シートが昇降・回転することで高齢者・身体障害者の乗り降りを容易にする「昇降シート車」「回転シート車」などが、それに当たるでしょう。
福祉車両の市場規模は?
介護保険制度が2000年4月にスタートして20年余り経ち、介護サービスを利用する人口は当初の3倍以上に増加しています。それに伴って、介護サービスや福祉車両などに対するニーズも年々高まっています。
福祉車両の販売台数の推移はどうなっているのでしょうか。1995年には約4,000台だった福祉車両の販売台数は、その後10年間で約10倍の市場規模に拡大を遂げました。ところが2003年以降は4万台強の横ばいを続けている状態です。原因として考えられるのは専門部品を多用する福祉車両は、標準車両と比較し高額な点が普及のネックだと考えられています。
それでも高齢者の増加とともに、自動車メーカーによって新機能も続々提案されることで、規模は小さいものの市場の拡大は大いに見込まれるでしょう。さらに福祉タクシーや福祉車両のリース・レンタカー事業も今後需要の拡大が見込まれることから、法人需要も拡大していくはずです。
福祉車両はどこで購入できるのか?
福祉車両は、どのような店舗で取り扱っているのでしょうか。
メーカー系ディーラー
ホンダやダイハツ、トヨタといったメーカー系のディーラーは、自社の販売する福祉車両が展示されている店舗を用意しています。具体的には、ホンダ「オレンジディーラー」、トヨタ「ハートフルプラザ」、ダイハツ「フレンドシップショップ」という名称の店舗です。これらの店舗で自社の福祉車両を展示・販売しているのはもちろん、福祉車両について詳しいスタッフが常駐していて、使い方などのアドバイスを行っているところも少なくありません。新品の福祉車両が欲しい、最新の機能を搭載した福祉車用が欲しい場合には、メーカー系ディーラーで購入すると良いでしょう。
ダイハツの「フレンドシップショップ」を例に挙げて、具体的にどのようなサービスを行っているのか紹介していきましょう。フレンドシップショップは、車椅子を利用する人も実際に来店して福祉車両を試せるよう、車椅子利用者優先の駐車場や段差のない出入り口、車椅子のまま利用しやすいトイレなどを完備しています。
またフレンドシップショップのスタッフは、全員が「福祉車両取扱士」の資格取得者です。福祉車両の操作方法はもちろん、一人ひとりに合った福祉車両選びや、購入に際しての助成制度や優遇税制の説明などもしてもらえるので心強いことでしょう。もちろん、実際に試乗車が用意されていて、操作方法や操作性、運転のしやすさなどが確かめられるのもメリットとなっています。
福祉車両専門店
さまざまなメーカーから販売されている福祉車両を展示・販売しているのが、福祉車両専門店です。福祉車両専門店には、「福祉車両取扱士」をはじめとした介護系の資格を持ったスタッフが常駐していることが大半です。福祉車両についてはもちろん、在宅介護について全般的な幅広い知識のあるスタッフに相談できるのは魅力でしょう。ただし、展示する福祉車両の多くは中古車であり、最新の福祉車両を見るのは難しいはずです。
福祉車両専門店の多くは、福祉装置の修理も得意としているのはご存知でしょうか。福祉車両専門店は中古の福祉車両をメインで扱っているため、メンテナンスや修理は日々行っているのです。ディーラーへも修理を依頼はできるものの、ディーラー自身では修理できず、下請け業者に依頼することになるので修理日数がかかる傾向にあります。
中古車販売店
中古車販売店の中には、福祉車両が展示されているケースもあります。その場合、格安で福祉車両が仕入れられたから販売しているだけなので、常に販売されているわけではありません。そのため多くの車種を比較検討するのは難しく、福祉車両に詳しいスタッフもいないことが多いので、購入は十分検討した方が良いでしょう。
福祉車両取り扱い店になるために!知っておきたい税金・助成金
福祉車両取り扱い店になれば、福祉車両の購入を検討している人に対して、車両についてはもちろんさまざまなアドバイスを求められるケースが多いことが考えられます。そこでここからは、福祉車両を購入する際や乗り続けるのに当たって申請できる補助金や助成金の減免や免除、割引などについて説明していきます。福祉車両は一般の車よりも高額であり、介護するのに必要であってもなかなか購入を踏み切れるものではありません。少しでもお得に福祉車両に乗れるよう、税金や助成金などについて詳しくなっておくと良いでしょう。
自動車の改造助成金
住んでいる市町村によっては、福祉車両に改造する場合、または改造した福祉車両を購入する場合に助成を受けられる場合があります。条件も市町村によって異なりますが、多くの場合、就職などで必要となった障害者本人が支障なく運転できるよう、運転補助装置をつけるための改造に対しての補助であることが多いようです。
ただし、必要だと認められる改造でなければ、助成の対象になりません。また、障害者手帳の等級や所得によって制限が設けられていたり、申請は数年に一度になっていたりと条件もさまざまなので、市町村に確認するといいでしょう。
助成の申請に必要な書類の用意も必要です。およそ次のようなものの用意が必要になるので、提出依頼のあったものを準備しましょう。
・改造の見積書
・車検証・運転免許証のコピー
・改造した際の領収書
・就労証明書
・通院証明書
・身体障害者手帳の現物
・前年度の所得証明書
・改造前後の写真(ナンバーと改造個所の写っているもの)
・預金通帳・口座印鑑
運転免除取得費助成金
運転免許を取得することで就労が見込まれる身体障害者においては、運転免許を取得する際の助成を受けられる制度もあります。運転免許を取得する際にかかった費用の一部が助成されます。
高速道路・カーフェリー利用料の割引
身体障害者本人や介助者の所有・運転する車が高速道路を利用する場合、割引料金で通行できる制度です。車はどのような車でも対象となり、ETCの利用でも割引が適用されます。ただし、事前に手続きする必要があるので気をつけましょう。また、各カーフェリー会社が運賃の割引を設けている場合もあります。事前に確認すると良いでしょう。
自動車購入費用・改造費用の貸付制度
家族のために福祉車両を買いたい・改造したい、福祉車両で仕事に就きたいなどといった人のため、市町村の社会福祉協議会で、福祉車両購入に充てる資金・改造費用の貸付制度を行っている場合があります。
自動車税の免除または減免
身体障害者所有本人または家族が運転する車として福祉車両を購入する場合は、自動車税が減免になります。また、構造が基準を満たしている福祉車両においては、自動車税は全額が免除される自治体もあります。非営利活動法人の使用でも減免または免除となり得ますが、事業用の車両は対象外となる自治体が多いでしょう。
・運転免許証のコピー
・印鑑
・身体障碍者手帳の現物
・車検証の現物
・納税通知書
上記の書類の中で必要なものを提出することになります。本人はもちろん、販売店で申請を行うことも可能です。
消費税の非課税
福祉車両の購入に当たっては、車体本体費用にかかる消費税が非課税となります。対象となるのは、厚生労働大臣の指定する「身体障害者用部品」の規定に該当した装置を備える自動車の購入のみとなります。
たとえば、車に車椅子を乗せる昇降装置や車椅子を固定する装置が備わった車両は、非課税になるでしょう。福祉車両への改造の場合は、取りつけにかかる諸費用やメンテナンス費用、修理パーツ代が非課税の対象となります。
「身体障碍者用部品」とは「運動系消費税非課税対象製品」と、「介助系経費課税対象の製品」からなり、それぞれ次のようなものが当てはまるでしょう。
運動系消費税非課税対象製品
・アクセル・ブレーキの手動運転装置
・足踏みウインカー
・足動運転装置
・右手動サイドブレーキバー
介助系経費課税対象の製品
・車椅子収納装置+車椅子固定具
・車椅子昇降リフト+車椅子固定具
・回転昇降シート+車椅子固定具
・車椅子収納装置+回転シート+車椅子固定具
これらの装置が故障した際の修理費用も、非課税になるケースもあります。ただし非課税となるのは、身体障害者本人が製品を使用する場合のみとなります。
福祉車両取り扱い店になるために!取得したい「福祉車両取扱士」
ダイハツのフレンドシップショップでは、スタッフが皆福祉車両取扱士の資格を取得しています。福祉車両取り扱い店になるために、ぜひ取得したい資格が福祉車両だと言えます。そこでここからは、注目の資格、福祉車両取扱士の資格について詳しく見ていきましょう。
福祉車両取扱士とは?
福祉車両取扱士は、日本福祉車両協会が認定を行っている資格です。福祉車両取扱士は、福祉車両を扱うのに必要な専門知識を有する福祉車両の専門家だと言えるでしょう。
福祉車両に関わる仕事の中でも、とくに流通に携わる人を対象にした資格だと言えます。福祉車両が必要なお客様との出会いから始まり、福祉車両へのニーズを把握した上で最適なものを提案し、購入後もアフターケアを行うなど、福祉車両取り扱い店に必要なスキルの身につく資格だと言えるでしょう。
福祉車両を必要として来店する人々は、福祉車両を購入することで利便性や安全性を改善するとともに、行動範囲を広げて豊かな生活が送れることを希望しているのではないでしょうか。そのようなお客様のサポートをし、一人ひとり異なるニーズを把握して最良の1台を提案していく専門家として、今後ニーズの高まることが十分予想される資格なのです。
福祉車両取扱士に求められる専門知識とは?
福祉車両取扱士に必要とされる専門知識には、次のようなものが挙げられます。
・福祉車両の種類についての知識
・福祉車両を取り扱うための基本理念
・介護業界などの基本知識
・ユーザーニーズの掌握
・税金の減免や消費税の取り扱いなど、各種優遇制度について
介護車両取扱士の資格の種類とは?
介護車両取扱士の資格には、「福祉車両取扱士」と「福祉車両取扱士・上級」の2種類があります。福祉車両取扱士は、福祉車両を取り扱う上での基礎を学ぶための資格です。福祉車両取り扱い店などの自動車専門業者や福祉機器を取り扱う専門業者、さらには将来に備えたい一般の方なども幅広く取得しているのが特徴でしょう。
「福祉車両取扱士・上級」は、福祉車両取扱士の資格を保有する者の中で福祉車両に関する業務に携わる人を対象にした上級資格です。福祉車両に関する専門技術やプロレベルの知識が必要となるでしょう。
介護車両取扱士の受験資格とは?
福祉車両取扱士の資格を取得するには、日本福祉車両協会の資格試験に合格しなければなりません。資格取得には、日本福祉車両協会の開催する「福祉車両取扱士講習」を受講することが必須となっています。
福祉車両取扱士の資格更新
福祉車両取扱士の資格は、一度取得して終わりでないのはご存知でしょうか。福祉車両は特殊性が高く、常に新しい情報を吸収していかなければならないのです。また、福祉車両を取り扱う以上、専門家として社会貢献しているという意識も常に持ち続けなければならないでしょう。
そのために資格更新制度が導入されています。「福祉車両取扱士」は1年ごと、「福祉車両取扱士・上級」も1年ごとに資格更新手続きが必要です。
福祉車両取り扱い店に求められるサービスとは?
福祉車両取り扱い店になるには、どのようなサービスが求められるのか把握することが大切でしょう。
さまざまな福祉車両の選択肢を用意
福祉車両へのニーズはお客様一人ひとり異なります。お客様の最適な一台を用意できるよう、新車・中古車を豊富に用意する必要があるでしょう。さらには、車両を購入するのが難しいお客様向けに、レンタカーサービスを導入することも考えられます。
専門家ならではのアドバイス
多くのお客様が福祉車両を購入するのは初めてであり、車体のことだけでなく介護についてさまざまな疑問や不安を抱えているものです。購入後の修理やメンテナンス、税金・補助金などの手続きなどをアドバイスできる福祉車両取扱士が在籍していれば、大きな安心感につながることでしょう。
福祉車両についてのワンストップサービス
福祉車両を購入したものの、故障の際はどこに修理を依頼すればいいのか、保険はどこで加入すればいいのか、突然の故障や自己にはどう対応すればいいのかなどわからないことも多いはずです。福祉車両取り扱い店で車体の購入のみならず、修理や板金塗装、自動車保険加入や万一の際のレスキュー、定期点検・車検なども依頼できるワンストップサービスを行っていれば心強いことでしょう。
講習会の実施
福祉施設などの送迎担当者として福祉車両を運転する人も多くいます。そのような人を対象にした、故障時の緊急会費講習や安全運転講習などの各種講習会の実施もニーズがあるでしょう。
福祉車両の代車を用意
一般的な車とは異なり、車検・点検や修理・板金の際にどのような代車でもいいというわけにはいきません。福祉車両の代車を貸し出せるサービスも必須だと言えます。
まとめ
福祉車両の市場規模はまだまだ大きくないものの、今後需要を伸ばしていくことは確実でしょう。福祉車両取り扱い店になるには、単に福祉車両を販売するだけにとどまらない、専門知識によるアドバイスやアフターサービスも必要となります。福祉車両取扱士の資格を取るなどして、専門知識を身につけましょう。