業種・業界を問わず、今注目を集めている最新トレンド、「Web3(ウェブスリー)」をご存知でしょうか。新たなインターネットの概念であるWeb3を知っているという人も、具体的な内容をイメージできる人は多くはないでしょう。
Web3は「分散型インターネット」とも称される次世代インターネットであり、今後のマーケティング戦略を考える上でWeb3の知識はなくてはならないものだと言えます。そこで今回は、分散型インターネット「Web3」について、注目される理由や特徴、メリットなどを分かりやすく解説していきます。
「Web3」とは?Web3までのインターネットの変遷
Web3とは、暗号通貨「イーサリアム」の創始者であるギャビン・ウッド氏が2014年に提唱した、インターネットの新しい概念です。「分散型インターネット」とも称されます。
「3」とは、ソフトウェアのバージョン管理で使用されている表現で、Web3 に至るまでに「Web1」「Web2」の時代を経てきました。
そこでまずは、Web1、Web2の時代を経てWeb3という概念が注目を集めている経緯について振り返っていきます。
「Web1」時代
1990年代半ばから始まった、インターネット黎明期がWeb1時代です。
Internet Explorerが登場して、インターネットが人々の身近になった頃です。
ただし回線速度はかなり遅く、限られた一部の発信者によって一方的な情報が伝達されていたのが特徴です。個人のホームページも限られた人しか作っていませんでした。
Web1の具体例としてはYahoo!やGoogle、MSNサーチなどの検索エンジンが挙げられます。
「Web2」時代
ティム・オライリー氏によって2000年代の半ばに提唱された概念がweb2です。それまでの一元的な情報発信から、誰でも簡単に発信・受信できる双方向性が生まれたのが特徴です。通信速度も速くなり、相互のコミュニケーションが取れるようにもなりました。テキスト主体のコンテンツから、画像・動画が主体となったのがWeb2です。
現代利用しているインターネットがWeb2だと言えます。具体的には、TwitterやInstagram、YouTubeやTikTokなどです。
個人情報保護の流れに
誰もが気軽にコンテンツを作って共有できるようになったものの、一部のプラットフォーマ―に多くの情報が集約されるようになったことで問題が発生しました。それは、2016年のアメリカ大統領選挙の際に起きた「ケンブリッジ・アメリティカ事件」です。
選挙コンサルティング会社であるケンブリッジ・アメリティカ社が、Facebookユーザーの情報を無断でターゲティングに使用したことが発覚しました。この事件で世界的に個人情報保護が急速に進み、日本でも個人情報保護法が議論されるきっかけとなりました。
Web3を模索する時代に
Web2において、AmazonやApple、MicrosoftやFacebook、Googleなどの一部のプラットフォーマ―に中央集権的に情報を集中させたために起きた事件をきっかけに、情報を分散させることでリスクを回避しようとする流れが起こりました。この流れで提唱されたのがWeb3です。
次の章では、Web3が注目されている理由を詳しく解説していきます。
Web3が注目されている理由とは?
Web1、Web2の時代を経て、個人情報を保護する流れが起こったことからWeb3は注目されるようになりました。そんなWeb3ですが、プライバシー問題への関心の高まり以外にも注目される理由があります。次に3つ挙げていきます。
プライバシー問題への関心の高まり
前の章でお話した「ケンブリッジ・アメリティカ事件」の他にも、個人情報を不正収集してGoogleなども訴訟されるなど、企業に個人情報を預けることへの疑念が高まっています。Web2ではプラットフォームを無料で利用するために氏名やメールアドレス、住所などの個人情報を登録していましたが、このことに不安感や抵抗感を持つ人が増えてきました。
Web3なら、アカウントの作成は不要です。「仮想通貨ウォレット」という仮想通貨で買い物するサービスに登録しておけば、ほぼ全てのサービスが匿名のままで利用できます。
Web3には、企業に個人情報を渡すのに抵抗がある人も安心して利用できる仕組みがあるのです。
技術の目覚ましい発展
Web3が現実味を帯びてきて注目されるようになったのには、目覚ましい技術の発展があります。Web3を主に支えるのは、「ブロックチェーン」という技術です。
ブロックチェーンについては次の章で詳しく説明しますが、分散管理のためのシステムのことを指します。企業に一元管理されていた個人情報を分散管理するシステムがブロックチェーンによって実現し、仮想通貨やNFTもブロックチェーンによって支えられているのです。
仮想通貨の急速普及
仮想通貨全体の時価総額は2014年には1兆円程度でしたが、2021年末には250兆円にまで増えています。まだまだ一般的に広く普及してはいないものの、仮想通貨の取引経験のある人は着実に増えています。
Web3での買い物は、全て仮想通貨が使われます。仮想通貨の普及とともに、Web3の注目度も上がっていっているのです。
Web3の特徴
Web3は、特定のプラットフォームにおける特定のプラットフォーマ―(管理者)に依存せず、ユーザー間が直接データやお金、コンテンツをやり取りすることを目指しています。この新しい形式は、情報漏えいの問題を次のようなテクノロジーで回避することを試みています。
P2P
「Peer-to-Peer」の略称がP2Pです。サーバを通さずに不特定多数のスマホなどの端末間で直接データを共有できるソフトウェア・通信技術のことを指します。身近なものでは、LINEはこの技術を採用しています。
P2Pのメリットは、個人情報を他人に預けることなく個人で管理できることにあります。個人よりもサイバー攻撃に遭いやすい企業サーバを介さずに済むのも、個人情報を守る点で有効です。サーバ管理者のミスによる情報漏えいのリスクもありません。
ブロックチェーン
ブロックチェーンとは、データの分散管理を実現する仕組みです。簡単に言うと、取引履歴をチェーン状に繋いでデータ管理する技術です。取引記録を詰めたブロックを一本のチェーン状に繋いでいくイメージです。
ブロックチェーンを採用することで、従来の一元管理よりも漏えいリスクが少なく安全なサービスが提供できるようになるのです。
NFT(非代替性トークン)
NFTとは、偽造が不可能な鑑定書や所有証明書付きのデジタルデータのことです。ブロックチェーンを活用することで、デジタルデータに対して非代替性がある、つまり唯一性を証明できるようになりました。
たとえば今まで、音楽や絵画、ゲームといったデジタルデータは簡単にコピーや改ざんができてしまうため、現物に比べて資産価値も高まらないものでした。そんな状況をブロックチェーンによってコピーや改ざんをしにくくすることで、デジタルデータの資産価値を大幅に上げたのです。
現に音楽作品が1億円、VRアーティストの作品が1300万円などの高額で落札されています。
Web3のメリット
Web1、Web2には無いWeb3のメリットとは、どのようなものがあるのでしょうか。
個人情報の漏えいリスクが減る
Web3では、自分の個人情報をプラットフォーマーではなく自分自身で管理できるのが、一番のメリットでしょう。従来のように、Cookieなどで自分でも気づかないうちにプラットフォーマ―に自分の情報が共有されるようなこともありません。
Web3のサービスを利用するのに、個人情報の提出は必要ありません。個人情報自体を提出していないので、流出して悪用されてしまうリスクもありません。
自由な通信ができる
Yahoo!ニュースのコメント欄やYouTube、Twitterなどで過激な発言や言動をして「アカウント凍結」や「コメント欄の閉鎖処置」をされることがあります。これは、言論統制ではないかとの議論も起きています。
P2P方式の通信を行うWeb3なら、このような発言のコントロールはないでしょう。
また、今までプラットフォーマ―に入っていた広告収入が個人に入ってくるようになります。個人と企業が直接繋がれるようになれば、中間マージンも不要になります。
セキュリティが向上する
Web2では、ハッカーが1つのサーバのハッキングに成功してしまえば情報を書き換えるなどの攻撃が容易にできてしまっていました。ブロックチェーンによって分散型のネットワークが可能になるWeb3になれば、 即情報が流出するという事態が防げるのです。
世界中の誰もがサービスを利用できる
Web3のサービスの1つであるDApps(分散型アプリケーション)は、世界中の誰もが利用できます。オンラインゲームで対戦するなど、人種や国境を越えた交流も可能になります。全くの匿名で利用でき、国も規制はできません。
Web3に分類されているサービス事例
ここまでWeb3について解説してきましたが、それでもまだWeb3を自分が使うシーンがイメージできない人も多いのではないでしょうか。
そこでここでは、Web3に分類されているサービスのいくつかを具体的に紹介します。Web3と一口に言っても、ブラウザやECサイト、ゲームなどさまざまなサービスがあります。
Brave(ブレイブ)
次世代型のプラットフォームであるBraveは、プライバシーの保護機能や広告のブロック機能を備えています。従来のプラットフォームに比べて、個人情報の保護機能が強化されているほか、有害なマルチウェアなどのプログラムをブロックする機能もあって、個人情報流出の不安から解消されます。
SafariやChromeと比較してもBraveの方が高速なブラウザだと第三者機関の調査で分かっていて、快適に使用できます。
広告をブロックもできますが、表示を許可すると視聴した広告の数に応じ暗号通貨が支払われることから、「見るだけで稼げるブラウザ」などと呼ばれます。今まではプラットフォームに支払われていた広告収入が、個人に支払われているのです。
OpenSea(オープンシー)
世界最大手を誇るNFTマーケットプレイスが、OpenSeaです。誰でも簡単に自分のデジタル作品を作成し出品できるため、近年注目が高まっています。個人間での売買になりますが、ウォレットを連携させて仮想通貨を支払えば完了で、従来のような決算システムは不要です。
Uniswap(ユニスワップ)
Uniswapは、「DEX」と呼ばれる分散型取引所の1つです。DEXとは、中央管理者がいない取引所を指します。
国内における仮装通貨の取引は、仲介を行う企業が運営する中央集権型の取引所が一般的です。しかし、Uniswapをはじめとした分散型取引所では、仲介を行う企業は存在せず、ユーザー間で直接取引されます。
仲介業者がいないため取引手数料がリーズナブルな点や、強固なセキュリティに守られながら取引できる点が魅力です。
My Crypto Heroes(マイクリプトヒーローズ)
通称「マイクリ」と呼ばれて親しまれている、日本発のブロックチェーンゲーム(NFTゲーム)です。アイテムやキャラクターなどを仮想通貨で課金して手に入れることができ、その価値は保障されるのが特徴です。また、NFT化されたキャラクターやアイテムをNFTマーケットプレイスで購入することも可能です。
CyberConnect(サイバーコネクト)
CyberConnectは、世界初のWeb3の思想である分散型のソーシャルグラフです。ソーシャルグラフとは、従来のSNSとは違った新たな形式のSNSです。SNS上での交流で形成される人間関係の事をソーシャルグラフと言います。
分散型のソーシャルグラフの最大の特徴は、管理者がいない点でしょう。フォロワーのデータ管理は、ユーザー主体で行います。また、登録時に個人情報を入力する必要もありません。アカウントを作る際には、仮想通貨のウォレットと連携するだけで完了です。
Web3の課題や問題点
Web3には多くのメリットがありますが、まだまだ新しい概念であり課題や問題点もあります。Web3を始めようと考える際には、課題や問題点も把握しておく必要があるでしょう。Web3の課題や問題点は、次の4点が考えられます。
トラブルは全て自己責任
プラットフォームの無いWeb3では、データの所有権は全てユーザー個人にあります。パスワードやIDが不要になって快適さは向上するものの、トラブルに遭ってしまっても救済を求められる組織や企業はありません。Web2より自由度がある分、自己の責任も重くなるのはよく留意しなければなりません。
法的な整備がまだできていない
今までにない新しい概念であるWeb3は、国会においても成長戦略の要にするべきなどと注目されてはいるものの、法的整備には今後まだまだ時間がかかりそうです。Web3上のさまざまなサービスに関しても、まだまだ法的整備が追い付いているとは言えません。
利用し始めるのにハードルが高い
今注目を集めているWeb3ではありますが、まだまだ利用するにはハードルが高いのが現状です。Web3で利用する仮想通貨を購入するには煩雑な手順を踏まなければならず、ITの知識が乏しい人にはまず参入するまでが大変でしょう。
今後は、誰もが気軽に参入できるような新規参入しやすい仕組み作りが課題となっています。
スケーラビリティ問題
ユーザー間でネットワークを構築し、全ての取引を全てのユーザーで共有するのが、ブロックチェーンの特徴です。その仕組み上、ユーザーが増えれば増えるほど取引に負荷が大きくなってしまい、取引にも時間がかかるようになってしまいます。これが「スケーラビリティ問題」です。時間を競った取引においても送金遅延を起こしてしまう可能性があります。
このスケーラビリティ問題は、今後Web3が拡大していく上での一番の課題だと言われています。負担をいかに減らしていくかが、今後の課題です。
Web3が現在活用されている業界・今後注目を集めるコンテンツ
Web3は、すでに多くの業界・企業で活用されているのはご存知でしょうか。具体的にどのような業界で活用されているのかを紹介します。さらに、今後Web3で注目を集めていくと考えられるコンテンツについても考えていきます。
Web3が活用されている業界
Web3が現在活発に活用されている業界と言えば、「ゲーム業界」が挙げられます。また「音楽業界」や「アニメ・漫画市場」も、多く参入しています。以前なら簡単にコピーされていたコンテンツもデータの改ざんや虚偽ができなくなるからです。
また、現実世界に近い世界を仮想空間上に構築する「メタバース」技術が向上し、仮想空間上に店舗を構えられる「小売り・EC業界」、「アパレル業界」「不動産業界」などもこぞってWeb3に参入しています。
Web3で今後注目を集めるコンテンツ
今後Web3で注目されるコンテンツはやはり、メタバースでしょう。仮想空間上に現実世界と似た世界を作り出す考え自体は古くからありますが、ブロックチェーンを活用すればメタバース内でのアバターと自分との同一性を担保できるようになります。
さらにメタバース上で売買される土地やアイテムなどをNFT化すれば唯一無二のものであることが証明でき、より付加価値が高い物の取引が行われるようになるでしょう。
まとめ
今注目されている分散型のインターネット「Web3」は、個人情報を保護しながら自由な個人間のやり取りが可能になります。ただし、まだまだ新しい概念であるWeb3には課題や問題点もあります。
インターネットの新時代が到来しようとしている今こそ、Web3についての知識を深めておきましょう。そしてビジネスに活用するためにも、Web3の動向に注目していくのをおすすめします。