「ハラスメント」という言葉が浸透して久しい日本において、「〇〇ハラ」と呼ばれるハラスメントは多種多様になっています。とくにハラスメントが起こりやすい環境の1つに「職場」があり、ハラスメント対策の有無が社員の職場満足度にも直結しているのです。
人事担当としては社員がハラスメントをしてしまった、されてしまった際の対応を考えておく必要があるでしょう。そこで、現代社会におけるハラスメントを事例とともに紹介するとともに、どのような対応ができるかを解説します。
「ハラスメント」とは?
「ハラスメント(Harassment)」とは日本語で、「迷惑行為」、「嫌がらせ」といった意味の言葉です。意識・無意識を問わず、特定または不特定の人の肉体や精神に不快感・苦痛を与える、居心地の悪さを感じさせるような行為を指します。具体的には、次のようなものがハラスメントに当たります。
・身体的な攻撃
・精神的な攻撃
・過大な要求
・過小な要求
・個の侵害
・人間関係からの切り離し
人権意識の高まりに伴い、日本でもさまざまな「〇〇ハラ」と称されるハラスメントが増えているのはご存知でしょう。思わぬ言動がハラスメントに当たる恐れがあり、さらにハラスメントに該当するかどうかの判断は、ハラスメントの受け手にゆだねられるため、広く共通理解を深める必要のあるものだと言えます。
そしてとくに注意しなければならない環境が、「職場」です。多くの企業には年代・性別さまざまな社員が集まり、上司・部下という上下関係もあるため、どうしてもパワハラが起こりやすい環境にあるためです。そして、社員のモチベーション低下やメンタルの不調・職場環境の悪化や、最悪の場合退職や裁判沙汰・自殺などにつながってしまう恐れもあるので対策は必須でしょう。
ハラスメントの種類①職場で多発しているハラスメントとは?事例も紹介
ハラスメントは、職場という上下関係のある環境で起こりやすいことが分かっています。ここからは、その中でもとくに職場で多発しているハラスメントについて、具体的な事例も交えて紹介していきます。
パワーハラスメント
職場における「上司」「指導役」などといった優位性を背景にして、業務における適正の範囲を超えた言動を行い精神的・身体的にダメージを与える行為が「パワーハラスメント」となります。通称「パワハラ」で広く知られているハラスメントの1つです。
必ずしも上司から部下への行為に限らず、同僚同士、または部下から上司への行為であっても、その地位を利用して嫌がらせをしたならそれは「パワハラ」に当たるのです。ここからは、パワハラの具体的な事例を紹介します。
・大勢の社員の前で、大声で怒鳴りつける
・目標達成のできなかった社員を、長時間立たせる
・特定の社員にだけミーティングに呼ばない、指示を出さない
・個人的な感情を背景にして、部下の昇進や昇格を妨害する
・管理職に対して新人レベルの仕事しか与えない
・部下に物を投げつける、蹴る
・明らかにキャパシティオーバーの仕事を押し付ける
・勝手にスマホを覗く
モラルハラスメント
身体的苦痛ではなく、モラル(倫理・道徳)に反し精神的苦痛を与える嫌がらせ全般が、モラルハラスメントです。通称「モラハラ」として知られています。暴言を吐く・睨む・無視する、不機嫌さを表に出すなどして相手の尊厳や人格・性格を見下したり否定したりし、巧みに人の心を傷つけるのがモラルハラスメントです。
モラルハラスメントは暴力や分かりやすい嫌がらせがないため、他から見えにくいという特徴があります。また、加害者自身には自覚のないまま、モラルハラスメントを行っているケースが多いのも特徴でしょう。モラルハラスメントの事例には、次のようなものがあります。
・相手の意見をことごとく拒絶する、論破する、無視する
・劣等感を植え付け、相手の自信を奪う発言を繰り返す
・わざと実行不可能な仕事を依頼する
セクシャルハラスメント
通称「セクハラ」と表現されるセクシャルハラスメントも、パワハラ同様に職場で頻発するハラスメントの1つです。セクシャルハラスメントとは相手の同意のない性的な嫌がらせのことです。
職場においては、相手の意に反した性的言動によって同僚者個人の尊厳を不当に傷つけ、労働環境を悪化させ、能力発揮を妨害するような言動が当てはまります。組織全体の秩序や業務の阻害にもなり、社会的な評価を落としてしまいかねないでしょう。
セクシャルハラスメントというと男性から女性に対するハラスメントのイメージが強いものの、同性間・女性から男性であってもセクシャルハラスメントに該当します。具体的には、次のような事例が考えられます。
・必要もなく肩や髪、腰や胸など体に触れる
・ヌード写真をパソコンのスクリーンセーバーに使用する
・交際についてや、性的な事実関係などを尋ねる
・「昇給させてやるから」など職務上の地位を使い、性的関係を強要する
・「男なんだから荷物を全部運んで」「女なんだから子どもを産むべき」といった、性役割の押し付けをする
マタニティハラスメント
マタニティハラスメントとは通称「マタハラ」で、妊娠や出産、育児休業などを理由に不当な扱いをしたり、嫌がらせをしたりするハラスメントです。
妊娠・出産をする女性だけでなく、育児休暇を取得する男性に対して嫌がらせをするのもマタニティハラスメントと見なされます。さらに、不妊治療を行っている社員に対する配慮のない言動もプレ・マタニティハラスメントに該当します。
・妊娠を報告した女性社員に対し退職を迫る、パートになれと言う
・契約社員に契約更新をしないと言う
・妊娠している社員に「早く帰れて羨ましい」「いい迷惑だ」など無理解な言葉を掛ける
リストラハラスメント
リストラハラスメント(通称リスハラ)は、リストラの対象者に対して嫌がらせをし、自主退職を迫るハラスメントです。ただし退職勧奨自体に違法性はないので、上司や人事担当者は線引きをしっかりする必要があるでしょう。リストラハラスメントの事例は、次のようなものがあります。
・適切ではない異動・業務命令を行う
・膨大な量の仕事、別分野の作業などの指示をして、精神的に追い込む
・何度も呼び出ししつこく退職勧奨する
ハラスメントの種類②多様化した現代におけるハラスメントとは?
パワーハラスメントやセクシャルハラスメント以外にも、ハラスメントは現代社会において多様化していることはご存知でしょうか。実はハラスメントは現代日本において、50種類以上あると言われているのです。ここからは、企業内で起こる可能性のあるさまざまなハラスメントを紹介していきましょう。
ジェンダーハラスメント
「男だから」「女だから」といった性別によって行動を制限したり、態度や発言に表したりするハラスメントがジェンダーハラスメント(通称ジェンハラ)です。性別を理由に業務を割り振られたり、同じ仕事なのに給与・待遇に差があったりするのもジェンダーハラスメントです。
テクノロジーハラスメント
PCやスマホなどITに詳しくない人に対し、詳しい人が差別発言や嫌がらせを行うのがテクノロジーハラスメント(通称テクハラ)です。詳しくない人が分からないIT用語をわざと頻用するのもテクハラに当たります。
リモートワークハラスメント
新型コロナウィルスの流行によってリモートワークが普及したことで生じるようになったハラスメントが、リモートワークハラスメント、通称リモハラです。オンライン会議中、画面に映る自宅室内の様子に対して過剰に反応したり、監視したりする行為がリモートワークハラスメントです。
パタニティハラスメント
「パタニティ(Paternity)」とは日本語で「父性」であり、育児休暇や育児のための早退、時短勤務などを申し出た男性社員に対し、それを阻害したり嫌がらせをしたりする言動がパタニティハラスメント(通称パタハラ)です。
エイジハラスメント
年齢を理由にして、嫌がらせや差別的な言動をするのが「エイジハラスメント(通称エイハラ)」です。社員の年齢を理由に部署や担当する業務を変える、プロジェクトから外す、年齢に関わる心無い言動を取るなどが、エイジングハラスメントです。また、求人の際に理由なく年齢制限を設けるのも、エイジングハラスメントに当たるので気を付けましょう。
アルコールハラスメント
職場内の優位性など相手の断れない立場を利用して、アルコールの多量摂取を強要したり、アルコールの飲めない人に対し配慮を欠く行為をしたりするのが、アルコールハラスメント(通称アルハラ)です。断り切れないように心理的な圧力をかけて一気飲みを強要したり、宴会に酒類以外の飲料を用意しなかったりするなどが当たります。女性だけに酌をするよう促すのもアルコールハラスメントであり、同時にセクシャルハラスメントにも該当するでしょう。
ケアハラスメント
働きながら家族の介護をしている社員に対し、介護休業・介護時短制度などの制度を不当に使わせない行為をケアハラスメント(通称ケアハラ)と言います。また、介護を行っている社員に対し、そのことを理由にして降格・解雇など不当に人事評価を下げる行為ももちろん、ケアハラスメントに該当するでしょう。
お菓子ハラスメント
職場で配られるお菓子についての嫌がらせがお菓子ハラスメントです。特定の人にだけお菓子を配らない、旅行の際にお菓子のお土産を強要する、配ったお菓子を無理やり食べさせるなど、案外職場で多く起きているハラスメントだと言えるでしょう。
ただしお菓子ハラスメントのためだけに何か特別な対策を講じる必要があるかというと、それもまた考えにくいものです。研修においてお菓子ハラスメントの存在や具体的事例に触れておけば、抑止力になることでしょう。
ハラスメントに対する法律はある?
日本においてもハラスメント、とくにパワーハラスメントの問題が顕在化するようになり、2020年に「改正労働施策総合推進法」、いわゆる「パワハラ防止法」が施行されました。2022年には中小企業も対象となっています。また、セクハラについては古くから「男女雇用機会均等法」において事業主に対し対策が義務付けられています。
ハラスメントが起こってしまう要因とは?
職場で起こりやすいとされるハラスメントの数々を紹介してきましたが、なぜ職場内でハラスメントが起きてしまうのでしょうか。その要因には、次の2点が考えられます。
社員個人の要因
社員の中には、ハラスメントについての意識の高い社員もいれば意識の低い社員もいます。ハラスメント意識が低い、具体的にはハラスメントを正しく知らない「無知」や気づかずハラスメント行為を行ってしまう「無自覚」が、ハラスメントの無くならない理由でしょう。
ハラスメントを過度に意識するあまり、相手と適切な距離で適切なコミュニケーションを取らないのも問題です。とくに管理職に多い傾向です。このように過敏に反応してしまうのも、ハラスメントについて正しい知識が無いからだと言えます。
組織風土の要因
会社から与えられている高すぎる達成目標の達成が難しい場合、ミスの許されない業務が課されている場合、過度に人手不足で1人1人の作業量が多すぎる場合など、日常的に強いストレスのある職場では、未熟者や目下の社員に対しハラスメントの起こってしまいがちです。
また、1人で全ての権限を握る上司がいたり、横断的な情報経路がなく上層部のみに実情が伝わっていたりといった閉鎖的な職場環境も、ハラスメントを生みやすい状態だと言えます。
ハラスメント対策が従業員の満足度に与える影響とは?
多様化し、企業において起こりやすいハラスメントですが、発生を予防・防止したり、発生時に適切に対処したりする「ハラスメント対策」を行うことで従業員の満足度にどのような影響があるのでしょうか。
社員の安心感が高まる
職場ではパワーハラスメント、セクシャルハラスメントなどのハラスメントが起こりやすいものです。ハラスメントの問題を抱えた職場では、社員は不安やストレス、職場への不信感を抱いてしまうのも無理はありません。しかしハラスメントに対する対策がしっかりなされていたら、社員は安心して働けることでしょう。ストレスなく働けることでモチベーションも上がり、仕事への意欲もアップするはずです。
職場の満足度が高まる
職場に対する満足度に大きく影響するのが、人間関係です。コミュニケーションが円滑な職場は働きやすくストレスもないので、満足度が高まることは当然でしょう。働きやすい環境づくりの一環としても、ハラスメント対策は重要だと言えます。
社員のために!人事担当ができるハラスメント対策とは?
ハラスメントをしない・されない企業づくりのために、人事担当はどのようなハラスメント対策ができるのでしょうか。
社内研修・トレーニングの実施
何と言っても、職場全体でハラスメントに対する認識や知識を共有することが重要です。誰か1人でも間違った解釈をしている人がいることで、その人が被害者・加害者どちらになった場合にも組織全体の大きなリスクとなってしまうのです。また、お菓子ハラスメントのように気づかぬうちにちょっとしたハラスメントになってしまっていることも多く、ハラスメントの存在を周知することで抑止力となるケースもあるでしょう。
定期的に研修やトレーニングを行い、正しい知識を持って常に高いハラスメントについてのアンテナを張った状態を保つことがポイントになるでしょう。その際に、厚生労働省の定めるハラスメントの資料など、より客観的な資料を使うのがおすすめです。
相談窓口の設置・報告体制の整備
2020年施行の「パワハラ防止法」を受け、「ハラスメント相談窓口」の設置が義務付けられました。これは大企業にとどまらず、2022年4月から中小企業も対象となっていることはご存知でしょう。設置の義務を怠った企業は、勧告もしくは企業名公表といった社会的な制裁が科されてしまうのです。社内でハラスメントの相談窓口担当者を決めるのはもちろん、外部委託という方法も考えられるでしょう。
専門家との連携
ハラスメント問題は法律の知識が必要となるケースも多く、日々解釈なども変化しているものです。相談窓口を設置するにしても、一社員だけに任せるのは難しい場合も多いでしょう。ハラスメントについての知識が豊富な専門家と連携することを検討するのがおすすめです。「日本ハラスメント協会」や「厚生労働省・労働基準局」といった機関へ相談するのもいいでしょう。
ルールや方針の整備
自社としてのハラスメントを防止する方針やルールを策定するのはもちろん大切ですが、策定して終わりにしてはいけません。必ず全社員に周知・徹底する必要があります。全社員のハラスメントについての意識を高めることで、ハラスメントを未然に防げるのです。
職場環境の整備
閉鎖的な人間関係や、不平等感のある評価制度、古くからの上下関係に関する慣例など、悪い職場環境にいる社員はストレスが溜まり、ハラスメントが生まれやすくなってしまいます。社員の満足度が高い職場づくりを心掛けることで、ハラスメントを未然に防ぐ努力も非常に有効でしょう。
まとめ
「〇〇ハラ」といったハラスメントは近年増加の一途であり、ハラスメントかどうかの判断はされた側にゆだねられることから、人事担当としてもハラスメントに対応する準備は必要不可欠です。ハラスメントについての共通認識を図るとともに、実際にハラスメントが起きてしまった時に企業として対処できる仕組みづくりをしておくことが大切です。そのような取り組みが、社員の働きやすさや満足度にもつながるでしょう。