インターネットの普及やデジタル媒体の多様化、コロナ禍などさまざまな情勢の移り変わりにより、消費者の行動は変わりつつあります。
従来のマーケティング手法のままでは、この先安定して、会社経営を続けるのは難しいかもしれません。そこで今回は、以前からどのように消費者の購買行動が変わってきているのかについて、解説します。
消費者の購買行動モデル
消費者の購買行動の変化を知るには前提として、これまで消費者がどのような購買行動を行ってきたかを、理解する必要があります。
消費者の購買行動モデルとは、消費者が商材を購入するまでの心理や行動のことをいいます。マーケティングをするうえで消費者の購買行動モデルを考えることは、欠かせない重要なものです。
時代に合わせた購買行動モデルを研究することで、より効率的なマーケティングを実現し、認知度や売上を大きく伸ばせます。ここからは消費者の購買行動モデルを古いものから順に紹介します。
マスメディア広告が主流だった頃の購買行動モデル
まずは購買行動モデルの基礎ともいえる、マスメディア広告が主流であった時代の、購買行動モデルについて説明します。消費者の購買行動モデルという考え方が生まれたのは、1920年代といわれています。
購買行動モデルの基礎ではあるものの、今でも通用する考え方です。これからのマーケティングをしていくうえで、抑えておくべき考え方です。マスメディア広告が主流だった頃の、購買行動モデルの代表的なものには、以下3つがあげられます。
AIDA
Attention(認知)・Interest(興味関心)、Desire(欲求)・Action(購買行動)の頭文字を取ったもので、AIDA(アイダ)とよばれるものです。このモデルは他のモデルの中でも最もシンプルに、消費者の購買行動の心理や行動を表した基本となります。
AttentionではテレビCMや雑誌、カタログなどを通して消費者が、自社の商材を知る段階です。ここで消費者が商材を知らなければ当然、その後の購買にも結びつかないので、消費者にとっての入り口という点で非常に重要な段階です。そのためここでのアプローチは、丁寧に行いましょう。
次にInterestでは消費者が、自社の商材に興味をもつという段階です。ここで消費者の興味関心を引ければ、その次のDesire(欲求)にも繋がります。自社商材の購入欲求が高まると、最後にAction(購買行動)として、商材の購入に至るというプロセスをたどります。
AIDMA
Attention(認知)・Interest(興味関心)・Desire(欲求)、Memory(記憶)・Action(購買行動)の頭文字を取ったものです。AIDMA(アイドマ)とよばれるものです。
このモデルはAIDAにMemory(記憶)を加えたもので、消費者の興味関心を惹くことができた商材を覚えておいてもらえるように、印象付ける段階となります。自社の商材を消費者の記憶に残せれば、一回限りではなく、今後新しい商材が出た際にも興味関心を引きやすくなります。自社ブランドのファンとして、集客しやすい環境づくりに役立つのです。
AIDCAS
Attention(認知)・Interest(興味関心)、Desire(欲求)・Conviction(確信)・Action(購買行動)、Satisfaction(評価)の頭文字を取ったものです。AIDCAS(アイドカス)とよばれています。
AIDMAと似たモデルではあるものの、AIDMAのMemory(記憶)の部分がConviction(確信)に変わっています。またAction(購買行動)のあとにSatisfaction(評価)の、追加されている点が異なるのです。
記憶の部分がより意識強度の高い確信に変わりました。この確信の段階で自社の商材に関して、消費者が自分にとって必要なものであると確信させられれば、その後のAction(購買行動)までの結びつきが高まります。購入せずに終わるという事態を減らせるでしょう。
商材の購入後に消費者がその結果を評価しよいものだと満足すれば、自社商材やブランドの固定ファンになってくれる可能性が高くなります。そうなれば広告やアピールをせずとも、リピーターとして再度商材を購入してくれる可能性が高まるのです。
インターネットが普及しだした頃の購買行動モデル
インターネット普及に伴い、従来のマスメディア広告だけでなくWeb広告を購買モデルに盛り込んだものが登場していきました。
AISAS
Attention(認知)・Interest(興味関心)、Search(検索)・Action(購買行動)・Share(共有)の頭文字を取ったものです。AISAS(アイサス)とよばれるものです。
検索や共有といったインターネット特有の心理や行動が、盛り込まれているのがAISASの特徴となります。消費者の検索結果に、自社ホームページを表示するためにSEOを意識しなければならない点が特徴です。また購入後に消費者に満足してもらい、SNSなどで共有して認知を広げてもらう点などが、今までのモデルと大きく異なる点です。
AIDCASが評価によってその消費者の今後の商材購入に繋げていたのに対して、AISASでは共有という形で、その消費者の周りに口コミをして認知を広げます。その点で広告効果が非常に高いモデルとなっています。
AISCEAS
Attention(認知)・Interest(興味関心)、Search(検索)・Comparison(比較)・Examination(検討)、Action(購買行動)・Share(共有)の頭文字を取ったものです。AISCEAS(アイシーズ)とよばれます。
AISCEASはAISASをより細かく分類したモデルで、AISASに比較と検討を加えたものとなっています。インターネットが普及して広まると、消費者はなにか情報がほしいとインターネットを検索するようになりました。そのうえ情報が一挙にインターネット上に集まるようになりました。
そうなると消費者は複数の企業ホームページを比較し、比較サイトなども確認したうえで、どこの企業の商材を購入するかを考えるように変化したのです。そのためこのモデルでは、競合他社の商材と自社の商材が比較されることを念頭に置いたうえで、自社ブランドのコンセプトの決定やホームページ制作を行う必要があります。
ZMOT
Zero Moment Of Truthの頭文字をとったもので、ZMOT(ズィーモット)とよばれます。インターネットの普及により消費者は、実店舗に来店する前に購入するものを決めているという、購買行動モデルです。
現在ではほぼひとり一台は、スマートフォンをもっているといわれております。手軽にあらゆることを調べられるため、実店舗に行ってから購入するものを決める消費者は、従来と比べ徐々に減ってきています。そのため実店舗に来店する前の段階で、いかに消費者の興味関心を引けるかが鍵となるのです。
FMOT
First Moment Of Truthの頭文字を取ったもので、FMOT(エフモット)とよばれます。このモデルはZMOTと考え方は似ています。ZMOTが実店舗への来店前の時点で消費者が意思決定しているのに対し、FMOTは実店舗に来店してからの購買判断である点で異なるのです。
FMOTは、消費者は来店して商材をみて数秒で購入するかどうかを決めるという考え方です。この数秒の間にいかに商材の魅力を伝えられるかが、このモデルにおいての鍵となります。そのため商材のパッケージデザインに力を入れて、購買判断までの数秒の間に、商材の魅力を伝えられるような工夫が必要となります。
SMOT
Second Moment Of Truthの頭文字をとったもので、SMOT(エスモット)とよばれるものです。SMOTはZMOTやFMOTと異なり、消費者が商材を購入したあとに注目した購買行動モデルです。このモデルを紐解くことで消費者が自社商材を購入した後、再度同じ商材を購入する人が増加し、リピーターの数を増やせます。
マイクロモーメント
2015年にGoogle社によって提唱された、ほとんどの人がスマートフォンを所持している現代ならではの、購買行動モデルです。消費者がなにか行動をしようと考えた場合に、すぐスマートフォンで検索を行うようになりました。
スマートフォンは常に身につけているものなので、消費者が何かしようと考えた瞬間すぐに検索できます。思いついてから検索までのタイムラグは、ほとんどありません。
SNSの普及による購買行動モデル
スマートフォンの普及によりSNSの影響力が飛躍的に高まったことで、購買行動モデルにも変化が生じました。以下ではここ10年程の間に提唱され始めている、購買行動モデルについて紹介します。
VISAS
Viral(口コミ)・Influence(影響)、Sympathy(共感)・Action(購買行動)・Share(共有)の頭文字をとったものです。VISAS(ヴィサス)とよばれています。
VISASの特筆すべき点は、消費者がもともとほしいと思っていなかった商材でも、口コミにより認知され購買行動につながることがあるという点です。これまでの購買行動モデルはもともとその商材のカテゴリに興味があった人が、対象にされるものでした。
しかしこのVISASモデルについては、カテゴリにすら興味がなかった人でさえ、購買行動に繋げられるという点が強みです。
SIPS
Sympathize(共感)・Identify(確認)、Participate(参加)・Share/Spread(共感/拡散)の頭文字をとったものです。SIPS(シップス)とよばれます。
共感のところで口コミを重視する点は、VISASと類似します。しかし大きく異なるのは、かならずしも購買行動を重視しないという点です。このモデルでは、消費者の口コミやSNSでの「いいね」やリツイートなどによる、拡散のもたらす広告効果を重要視しています。
ULSSAS
User Generated Contents(認知)・Like(好印象)、Search1(検索1)・Search2(検索2)・Action(購買行動)、Spread(拡散)の頭文字をとったものです。ULSSAS(ウルサス)とよばれています。
このモデルはSNSを主な集客方法とする購買行動モデルで、SNSの広告や投稿などから、自社商材を認知することから始まります。そこから投稿を「いいね」するなどして、好印象であることを発信するのです。そこで新たな消費者への認知に繋げられます。
その後SNS内で検索(Search1)して、情報収集します。消費者はその後YahooやGoogleなどの検索エンジンから、再度検索(Search2)し自社のホームページなどにたどり着き、購入に至るというプロセスを経るのです。
コンテンツマーケティングによる購買行動モデル
コンテンツマーケティングとは、広告ではなく有益な情報を発信することで集客を行う、マーケティング方法をいいます。このマーケティング方法の利点として、その商材に興味のない人に興味関心をもってもらえるという点が特徴です。また専門的な情報を定期的に発信することで、消費者にとっての専門家(権威)的なポジションを確立でき、企業全体の信用を高める効果もあります。
自社の商材を直接アピールするわけではないので、自社商材そのものに興味がない消費者にも、敬遠されるリスクが少ないのです。また自然に自社商材のアピールや認知につなげられるのも、このマーケティング方法の魅力のひとつです。
DECAX
Discovery(発見)・Engage(関係)・Check(確認)、Action(購買行動)・Experience(体験/共有)の頭文字をとったものとなります。DECAX(デキャックス)とよばれています。この購買行動モデルは、コンテンツマーケティングに触れた消費者がどのような心理や行動を起こすのかを、モデル化したものです。
このモデルでは、まず消費者にコンテンツを読んでもらうことで自社商材やサービスなどに触れてもらい、自社商材への認知を増やします。その後コンテンツを通して、消費者と信頼関係を築いていきます。信頼関係構築のためには、提示するコンテンツが消費者にとって、有用であることを示す必要があるのです。
消費者はそのコンテンツが偏った知識に基づくものではないかを検討し、自身の役に立つかも考察します。そこでコンテンツを有用に感じた消費者は、購買行動に出るという流れです。その後商材で得た体験を、SNSなどを通して共有・拡散するため、さらに自社商材の認知が広まるという好循環を生み出します。
実店舗でのマーケティングの重要性
ここまでテレビ広告や雑誌による宣伝に始まり、インターネット普及によるホームページの作成やSNSの活用など、さまざまなマーケティング方法をお話してきました。もちろんこれらのマーケティング手法や購買行動モデルは、今でもさまざまな企業が取り入れ実践しているものです。
ただこれらの手法やモデルに注力しすぎるあまり、消費者の実店舗での購買行動について見落としてしまいがちでしょう。しかしオンラインによる集客が増えてきている一方で、オフラインでの購買がいまだに9割にも上るというデータが、富士経済の「通販・eコマースビジネスの実態と今後2022」において提示されています。
そのためオンラインでのマーケティングと並行して、オフラインでのマーケティングにも目を向けることを忘れてはいけません。
オンラインに適したマーケティング
オンラインでのマーケティングは、基本的に実店舗に来店してもらうまでの導入に向いているとされます。たとえば購入をどこのお店で行うとお得なのかということや、あるジャンルの商品がほしいがどこの商品がよいかなどを消費者が模索している場合もあるでしょう。その際自社商材への導線には、オンラインでの広告やアピールなどのマーケティング方法が適しています。
消費者がある程度何がほしいかを認識している場合には、実店舗に来店する時にはすでに何を購入するかを決めている計画購買の場合が多いのです。オフラインで実店舗に来店した消費者用にマーケティングをしたとしても、効果が薄いとされています。
オフラインに適したマーケティング
一方オフラインでのマーケティングは、新規顧客を獲得する際に大きな意味をもちます。明確に特定の商品を購入しに来ただけの消費者であれば、あまり効果はないでしょう。しかし実店舗に来店する消費者の多くは、明確に購入する商品が決まらないまま来店していることも多いものです。
この場合には店内の商品パッケージやポップのデザイン、接客による自社商品のアピールによって、購買意欲を高めて自社製品購入に繋げられます。また消費者がもともと目的にしていたカテゴリの商品以外も、必然的に目に入ります。
そのため来店当初はニーズのない商品であっても、マーケティング次第でニーズを引き出せるのです。これはオンラインでのマーケティングでは、なかなか難しいのが現状です。
オンラインでのマーケティングで消費者は、多少なりとも興味のある内容しか目に入りません。もちろん先にお話ししたSNSや口コミなどによる集客であれば、新規顧客の獲得も不可能ではないでしょう。しかしオフラインでのマーケティングほど、効果は高くありません。
まとめ
今回は消費者の購買行動モデルの移り変わりについてと、オンラインとオフラインでのマーケティングにおける、それぞれの適した場面についてお話していきました。
以前はテレビ広告や雑誌などのマスメディア広告と、オフラインでの実店舗におけるパッケージやポップに関するマーケティングだけでよかったでしょう。しかしインターネットの流行に合わせて自社のホームページの作成や改修、SEOを意識したサイト作りなどにも、目を向ける必要が出てきました。
スマートフォンがほぼひとり一台所持している段階まで普及すると、消費者がすぐに気になった商材や情報について、インターネットにアクセスできるようになったのです。それゆえ競合他社との比較に対する差別化が、重要視される結果となりました。
その後SNSの影響力が飛躍的に高まったことで、SNSを主とする購買行動モデルが台頭し、SNSを意識したマーケティングを行う企業が増えていきました。オンラインでのマーケティングに力を入れなければならなくなった現代でも、オフラインでのマーケティングをおろそかにしてしまうと、せっかくの集客チャンスを逃してしまいます。
オンラインとオフラインでのマーケティングの適材適所を見極めて、より効率的なマーケティングを実現しましょう。